思春期の虎の巻[第四回] 十四歳・二「負のスパイラルにはまった」

思春期の虎の巻

2018.08.20

中学二年の一学期の終わり、一年生と三年生の話し合いで、新しい演劇部の部長が決まりました。

結果を言いますと、私は選ばれませんでした。


正直なことを言いますと、少し自信があったのです。
四人いた私たち二年生のメンバーには、リーダーシップを発揮するような性格の子は、いなかったからです。
だから私は、勝てる(なんてことを言うのでしょう!)と思っていたのでした。
何と言っても、時任部長(仮)の様になりたかったのですから。

しかし、そうはいかなかったのでした。
私は恐れられることに成功してはいても、尊敬を勝ち得てはいませんでした。
むしろ嫌われていたのです。
今、思うと当然だったと思います。

新しい部長は、大人しい羽田さん(仮)、副部長は米田さん(仮)に決まりました。
そして、三年生は卒部していきました。

米田さんがクラスで苛められているという噂を聞いたのは、二年生になったばかりの頃でした。
彼女はそれを部員には隠していました。
笑顔でした。

そして二学期になっての放課後、部活のあと、私たち二年生の四人は連れ立って、それぞれの教室に着替えにかえりました。
私は、同級生には威張ったりしてはいなかったのです。
それでも、下の名で呼ばれてはおらず、「森さん」でした。

薄暗い中、私は先に着替え終わったので、米田さんの教室に寄りました。
すると、男子三名が大声をあげて、米田さんを突き飛ばしていました。
米田さんは泣いていました。

「おい、よーねーだー」
彼らはそうはやし立てていました。
「何とか言え!」と。

瞬間、私は
「やめなさいよ、あんた達!」
と叫んでいました。
かばいたかったのです。
米田さんを?
いえ、弱い人を…でした。
男子を追いやりながら、正直、私は自分の正しさに酔っていました。
そうです、酔っていました。
ヒロイズムに。

それが、米田さんには伝わっていたのでしょう。
「よねちゃん、大丈夫?」と私が訊くと、
彼女は「ほっといて。森さん、ほっといてよ!」とそっぽを向きました。

そうして、こう言いました。

「偽善者」と。

その言葉はゾッと私の体を駆け巡りました。
蒼白になった私を彼女は黙って感じていました。
私は返す言葉も見つけられず、こう思いました。

(私は心が薄汚れている)と。

この後から、米田さんは私をなじる事が増えて行きました。
こう言っては何ですが、いいはけ口を見つけたからです。
何故なら私は一言も言い返さなかったのです。
彼女の言葉に、全部自分を責めました。
エスカレートして、行き過ぎたセリフもにも反発せず、下を向きました。
彼女の言い回しは巧妙で、私の痛いところを完璧に探り当てていたのです。

私はとうとう、恐ろしい存在の自己否定を始めました。

私はいい子に思われたがっている嫌な人間だ。
反省している振りをしている利己的な人間だ。
いい子ぶってる汚い人間だ。

ひとつ罰しても、それを見ているもうひとりの自分に気付き、許せませんでした。
そして次の自分、次の自分と自我がある限り、きりがありませんでした。
私は総ての自分を否定していきました。
そして行きつくところまで行きつくと「私なんて思い知ればいい!罰せられればいい!」と泣き叫んでいました。

家族のいないお風呂場で。それは毎日続きました。

私の世界から色彩が抜け落ちていきました。
そうして、私は鬱状態になりました。
集中力が落ち、目が死んでいきました。
授業中に首を振ると、パラパラと机にふけが落ちて行きました。

それでも私は部活を辞めませんでした。
おかしな話ですが、そもそもの気分の落ち込みの原因がそこに在るとは気づきもしなかったのです。

鬱病は日常のストレスから始まると言われています。
日本人の十五人に一人がかかるとの統計も出ています。

鬱病は、BADスパイラル(負のスパイラル)に陥っています
『鬱的な暗い考え』や『鬱的な行動』から『鬱の気分』が起こり、その『鬱の気分』が又『鬱的考え』と『鬱的行動』を引き起こし、グルグル回っているのです。

認知行動療法は、認知(考え)と行動に働きかけ、バランスの取れたものに変えて、気分の向上を目指す療法です。
そうするとBADスパイラルはGOODスパイラルに変わります。
カウンセラーはそのお手伝いをします。

この時の私には、まず誰か受け止めてくれる人が必要でした。
そしてその後、この様なアプローチをして貰いたかったと、切に思います。

治った今だからこそ、こう言えるのは分かっています。
落ち込みを経験したからこそ、他人への気遣いが出来るようになったし、本当の自信と強さを手に出来たのだと。

しかし、この療法を早く知りたかったとも思っています。
まあ、これからの自分に期待しましょう。

(森詩子

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