思春期の虎の巻[第九回] 十六歳・一 「袋小路に迷い込んで」

2019.01.09

「森さんの真似~!」
授業中の教室の隣の席の男の子が、背を丸めました。その子の後ろの席の男子が声をたてて笑いました。

K高校に入学して二か月が経っていた頃の事です。

私は虚ろな目で彼らを眺めた様に思います。
実際、私は姿勢悪く席に座り、無気力な状態でした。
彼らを嫌だとも何とも思いもしませんでした。

授業にはついていけませんでした。
私の頭には何も入って来ませんでしたから。
唯々、分からない内容を聞くだけの日々が、苦痛で仕方がありませんでした。

二か月経ってもクラスで友達は一人も出来ませんでした。

中学の部活で一緒だった羽田さん(仮)のいる、K高校演劇部に加わって、漸く仲間が出来た頃の事でした。

そして、夏休みを迎える頃には、私は学校をサボる事を覚えました。

朝、公衆電話から担任に休む旨を伝えて学校へは向かわないのです。

それでも、鬱状態の初期だったので、朝、家を出るのです。
そして定期を使って駅に入ると、横浜まで出て東海道線に乗り、小田原へ向かい、又、還って来るのです。
改札さえ出なければJR内での行き来は簡単でした。

その間、私は車窓からぼんやりと景色を見ていました。その頃の私にとって一番の心の休まる時間でした。
(このまま、一生が過ぎて行くのかな。お日様は照っているのに)

私には自分の将来が心に描けませんでした。

お金に余裕のある時は、横浜で下車した事もあります。
制服のまま、本屋や文房具店、デパートをうろつきました。
そうして締めはデパ地下のイタリアンジェラートでした。

呆れた事に、私は放課後になってから学校に向かい、部活にだけ参加していました。

考えると先生たちは心底、困っていたでしょう。
しかしまだ、学校から親に連絡はありませんでした。

酷い事に部活にだけ出る為、私服で学校に行ったこともあります。

矢張り、どこかで友達が恋しかったのでしょう。
部活の仲間には会いたかった。彼女達は、深刻に捉えず、私が遅れて学校に到着すると、
「キタ~!」
と笑って迎えてくれました。
私は
「フフフ」
とへらへらと応じました。

そこには救いがありました。
私は何とか世間と繋がっていたのです。
K高校を辞める二年生まで演劇部の大会に重要な役で出ていました。

どこかの作家ではありませんが、辛うじて道化を演じてやり過ごしていたのです。

因みに初めてのバイトも一年生の時、体験しました。
学校には行かないくせに、峯田さん(仮)という部活の友人と、ファミレスでウェートレスとして働きました。
三か月くらいで辞めてしまいましたが。

そうして、学校から親へ連絡が行くまで、ベットから起き上がれなくなるまで、靄の掛かった様な、虚ろな現実を生きていました。

その間、誰にも心の内は見せませんでした。
実は生まれてこの方、人に相談する事など一度もしたことは無かったのです。

無気力な笑い。
それしか生きていく方法は見出せませんでした。
そうして厭世的になって行ったのです。

私は中学生から肩がこり始めました。
今でも肩こり症です。
それも、鬱の身体症状の一種から発症したのかもしれません。

鬱病になる人の特徴として、「几帳面で真面目、上手な手抜きの出来ない人」と『認知行動療法』のテキストを開くとまず書いてあります。

そして、更に鬱の人の心に響く文章が強調されて載っています。

「鬱病とは性格や心の弱さのせいではない」と。

どれ程の人がこの言葉に救われるでしょうか。
私も十代の時、自己評価が物凄く低かったのです。
そして、そんな自分を心の内で罰し、更に深刻な鬱へと落ち込んで行きました。

人に泣き言を言ってもいいのですよ。
相手が余裕のある状態の人ならば。

そしてどうか、希望を失わないで下さい。
心の重荷を打ち明けたら、今度は前進することです。
人生を諦めないことです。
焦る事はありません。
唯、自分を治せるのは自分自身だと固く決意することです。
周りの人はサポートすることしか出来ません。

友達同士なら、時にぶら下がり過ぎると、重荷と思われるかもしれません。
そんな時には、軽い気持ちで医師やカウンセラーを頼ってみて下さい。

鬱は一進一退です。
真面目過ぎる人は周りを見て、焦ってしまうかもしれません。
でも、勝手にお薬を抜いたりせず、医師とカウンセラーに相談しながら、少しずつ改善して行きましょう。

あなたは今、あらゆる芸術を理解する扉を開いたのかもしれません。
一流の芸術は苦悩を乗り越えた後に開けたものです。
しかし、病を大切に抱えたままでいいとは言えません。
苦悩は乗り越える事に意味があるからです。

少し、芸術論に傾きましたが、乗り越えた後に見渡してみると、素晴らしい贈り物が世界中に満ちていることに気付くと思います。

驕らず、騙されず、あらゆる色彩を抱き締められる時が必ず来ます。
希望は上へ上へと繋がっていると信じてみて下さい。

(森詩子

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