なぜか毎日つらい…それは”考え方のクセ”かもしれません|認知行動療法で心を整える方法

なぜ今、メンタル不調を抱える人が増えているのでしょうか

現代は「心が疲れやすい時代」になっている

「なんだかずっと疲れている」「別に大きな出来事があったわけじゃないのに、気持ちが沈む」——そんな感覚、あなたにも覚えがありますか?

実は、あなただけが特別につらいわけではありません。日本全体で、心の不調を抱える人は静かに、しかし確実に増えています。

厚生労働省の2024年版「厚生労働白書」によれば、精神疾患を有する外来患者数は2020年時点で約586万人と、12年前から倍増しています。
さらに、健康にとって最大のリスクとして「精神病を引き起こすようなストレス」を挙げた人の割合は、20年前のおよそ3倍にまで増加しました。

なかでも心配なのが、10代・20代の若い世代です。
パーソル総合研究所の調査では、若手従業員のメンタルヘルス不調の増加が企業にとって深刻な経営課題となっていることが報告されており、「テクノストレス」や「キャリア不安」など、若い世代ならではの悩みが心を蝕んでいる実態が浮かび上がっています。
また、若者の間では、心の不調を「相談しにくい」と感じる傾向が強く、こころの不調を職場や学校に相談するという人はわずか8%にとどまるというデータもあります。

背景には、さまざまな現代特有のストレスがあります。SNSを開けば他者の”充実した日常”が流れてくる。
情報は絶え間なく更新され、処理しきれないほどの刺激が押し寄せてくる。人間関係は複雑になり、職場でも気を遣う場面が増えた。
「頑張っているはずなのに、なぜか追いつかない」と感じる人が、それだけ多いということです。

これは、あなたの「心が弱い」からではありません。それだけ、今の時代が心にとって過酷な環境になっているということです。

企業も”心のケア”を重要視し始めている

こうした状況を受けて、近年では企業のあり方も変わってきています。

かつて「メンタルヘルス対策=福利厚生のひとつ」として扱われていたものが、今や「経営課題」として位置づけられるようになりました。
従業員が心の不調で休職・離職すれば、職場全体の生産性が落ち、組織としての力が失われていく。
そのことに、多くの企業が気づき始めています。

特に近年注目されているのが、認知行動療法(CBT)の考え方をベースにしたチャットサポートや、スマートフォンアプリを活用したメンタルヘルス支援の導入です。
米国の大手企業を対象とした2024年の調査では、企業の77%が「従業員のメンタルヘルス問題が悪化している」と回答し、翌年以降の最優先施策として「メンタルヘルスケアサービスへのアクセス向上」を掲げた企業が最多となりました。
日本でも同様に、健康経営の一環としてCBTベースのオンラインカウンセリングや行動変容プログラムを取り入れる企業が増えています。

心のケアは、もはや個人が陰でこっそり取り組むものではなくなってきています。
社会全体が「心の健康は、誰もが取り組むべきテーマだ」という認識に、少しずつ変わってきているのです。

疲れ

認知行動療法(CBT)とは何でしょうか

認知行動療法は「考え方を変える心理学」ではありません

「認知行動療法」という言葉を聞いて、「なんだか難しそう」「病院でやるものでしょ?」と感じた方もいるかもしれません。
あるいは、「ネガティブな考えをポジティブに変える訓練?」と想像した方もいるでしょう。

でも、少し違います。

認知行動療法とは、「物事の受け取り方(認知)」と「行動」の両方に着目して、こころの負担を軽くしていく心理療法のことです。
そして大切なのは、これが「無理やりポジティブに考え直す」ための技術ではないということ。むしろ正反対です。

CBTが目指すのは、「気づくこと」「整理すること」「柔軟にすること」の3つです。

「あ、今の自分、すごく極端に考えているかも」と気づく。「なぜそう感じたのか、少し書き出して整理してみよう」と試みる。
「別の見方もあるかな?」と少しだけ視野を広げる。こういった小さな習慣の積み重ねが、心の負担をじわじわと軽くしていく——それがCBTのアプローチです。

この手法は、うつ病や不安障害などの治療に医療現場で広く活用されているのはもちろんのこと、近年では企業の健康経営、学校でのストレス教育、そしてスマートフォンのセルフケアアプリにまで応用が広がっています。
特定の病気のある人だけのものではなく、「ちょっとしんどい」という誰もが感じる日常のつらさにも、十分役立てられる方法なのです。

「出来事」よりも「受け取り方」が苦しさを作ることがあります

CBTの核心をひとつの言葉で表すなら、「苦しさを生んでいるのは、出来事そのものではなく、その受け取り方である」ということです。

少し、具体的なシーンで考えてみましょう。


上司から「ちょっといいですか」と声をかけられた。

Aさんの頭の中:「やばい、怒られる。何かやらかしたかな……」→ 不安、緊張、胃が痛い

Bさんの頭の中:「相談かな、それとも新しい仕事の話かな」→ 少し気になるけど、落ち着いている


起きた出来事はまったく同じです。「上司に声をかけられた」という事実だけ。でも、Aさんは不安で頭が真っ白になり、Bさんは比較的穏やかにいられる。

この違いはどこから来るのでしょうか。

答えは、「出来事をどう解釈したか」という一点にあります。

そしてこの「解釈」は、多くの場合、私たちが無意識に行っているものです。
頭の中で自動的にパッと浮かぶ考え——これをCBTでは「自動思考」と呼びます。

自動思考は、良い面も悪い面もあります。素早く状況を判断できる便利さがある一方で、過去の経験や思い込みに引きずられて、必要以上にネガティブな方向へ走ることがある。
そしてその「ネガティブな自動思考」が積み重なることで、心が疲弊していくのです。

でも、ここで一つ、とても大切なことをお伝えしたいと思います。

それは、あなたのせいではありません。

人間の脳は、生存本能として「危険を察知しやすい」構造になっています。良いことより悪いことに敏感に反応する「ネガティブバイアス」は、誰もが持っている脳の特性です。だから、悪い方向に考えてしまうのは、あなたが弱いからでも、おかしいからでもない。ただ、脳が本来の機能を発揮しているだけなのです。

CBTはその「脳のクセ」にそっと気づかせてくれる、地図のようなものです。

あなたにもあるかもしれない「考え方のクセ」

自動思考には、いくつかのパターンがあります。以下に代表的なものを挙げてみます。
自分に当てはまるものがあっても、どうか自分を責めないでください。
これは「あなたがダメ」なのではなく、「誰もが陥りやすいこころの習慣」です。

孤独

白黒思考

「失敗した=全部ダメ」

物事を「完璧かゼロか」「成功か失敗か」という二択でしか見られなくなってしまう考え方です。

たとえば、仕事でひとつミスをしたとき、「今日の自分は最悪だった。もう信頼してもらえない」と感じてしまう。実際には、そのミス以外の仕事はきちんとこなせていたとしても、そちらには目が向かず、失敗の部分だけがクローズアップされてしまいます。

白黒思考は、完璧主義の方や「もっと頑張らなければ」という意識が強い方に多く見られます。

決めつけ思考

「返信が遅い=嫌われた」

根拠が薄いにもかかわらず、特定の結論を決めつけてしまうパターンです。

たとえば、友人にLINEを送ったのに数時間返信が来なかっただけで、「あ、もしかして何か怒らせたかな。嫌われたかもしれない」と心配が止まらなくなる。
実際には相手がたまたま忙しかっただけかもしれないのに、最悪の解釈を真実のように受け取ってしまいます。

スマートフォンが普及し、既読・未読がすぐわかる現代では、特にこの思考に陥りやすい環境になっています。

自分責めの思考

「全部自分が悪い」

何か問題が起きたとき、自分の関与がほとんどなかったとしても、「やっぱり自分のせいだ」と結びつけてしまう考え方です。

たとえば、チームの仕事がうまくいかなかったとき、「私がもっとちゃんとやっていれば」「私が足を引っ張ったんだ」と感じてしまう。
周りの人はそんなことを思っていないのに、責任を一人で背負い込んでしまいます。

優しさや責任感の強さが、裏返ってこの思考につながることが多くあります。

未来を悪く予測してしまう思考

「きっと失敗する」

まだ何も起きていないのに、「どうせうまくいかない」「絶対に失敗する」と先回りして絶望してしまうパターンです。

たとえば、来週プレゼンがあるとわかった瞬間から、「うまく話せなかったらどうしよう」「笑われたら」「頭が真っ白になったら」と、起きてもいない最悪の場面を何度も頭の中で再生してしまう。
そのせいで、準備に集中できなかったり、眠れなくなったりすることもあります。


いくつか「これ、自分だ」と思うものはありましたか?

だとしたら、それはとても大切な気づきです。考え方のクセは、気づくことができて初めて、少しずつ変えていける可能性が生まれます。

今日からできる認知行動療法セルフケア

「でも、どうすればいいの?」そう思った方へ、ここからは具体的な実践ステップをお伝えします。
難しいことは何もありません。
ノートと鉛筆、あるいはスマートフォンのメモアプリがあれば十分です。

①出来事を書く

まず、「気持ちがざわついた出来事」を書き出してみましょう。

ポイントは、事実だけを書くことです。感情や解釈は、この段階では混ぜないようにします。

「上司に資料の修正を頼まれた」 「友人から予定をキャンセルされた」 「会議で意見を言えなかった」

こんなふうに、ニュースの見出しのようにシンプルに。「なぜ?」も「どうして?」も、今は必要ありません。まず、何が起きたかを言葉にすることが、最初の一歩です。

②その時の考えを書く

次に、そのとき頭の中に浮かんでいた「言葉」を書き出してみます。

「また怒られる」「私はダメな人間だ」「もう信用してもらえない」「どうせ失敗する」——こういった、あの瞬間に頭をよぎったひとりごとが「自動思考」です。

感情(悲しい、不安、怒り)ではなく、そのとき考えていたことを言葉にしてみてください。
「なんとなく嫌だった」ではなく、「なんとなく嫌だったのは、頭の中でどんなことを考えていたから?」と自分に問いかけてみましょう。

③別の見方を探す

ここが、CBTで最も大切なステップのひとつです。

そして、「無理にポジティブに考える」必要はありません

「失敗したけど大丈夫!」と無理に思い込もうとしても、心は素直には動きません。
それよりも、「他にどんな可能性があるだろう?」と、もう少し広い視点から考えてみることが大切です。

たとえば、「返信が来ない=嫌われた」という自動思考に対して—— 「でも、忙しいだけかもしれない」 「体調が悪い可能性もある」 「既読がついていないから、まだ気づいていないのかも」

こうした「別の可能性」を、2〜3個書き出してみましょう。全部が全部を信じ込まなくてもいいです。
ただ、「他の見方もあるかもしれない」と少し立ち止まれるだけで、感情の揺れは少しだけ落ち着いてきます。

④小さく試してみる

認知行動療法が「認知(考え方)」だけでなく、「行動」にもアプローチするのには理由があります。

私たちの思考と行動は、深く結びついています。
落ち込んでいるとき、人はたいてい「横になったまま動かない」「人と話すのを避ける」「好きなことを後回しにする」という行動パターンに入ります。
そしてその行動が、さらに気分を落ち込ませてしまう。

だから、小さな「行動の実験」を試してみましょう。

「いつもより5分だけ早く外に出てみる」 「好きな飲み物を丁寧に淹れてみる」 「今週一度だけ、気になっていた友人に連絡してみる」

大きな変化は必要ありません。「これが気分に影響するかどうか、ちょっと試してみよう」という軽い気持ちで始めるのがコツです。
行動が少しずつ変わると、それに引きずられるように気分も動き始めます。

認知モデル

まとめ|「性格を変える」のではなく「考え方との付き合い方」を変えていく

最後に、この記事を通じてお伝えしたかった一番大切なことをまとめます。

考え方のクセは、誰にでもあります。 白黒思考も、決めつけ思考も、自分責めも、未来への不安も——これらはあなただけの問題ではなく、すべての人が持っている「脳のクセ」のひとつです。

生きづらさは、少しずつ変えていけます。 認知行動療法は、性格を根本から変えようとする療法ではありません。
「ちょっと待って。本当にそうだろうか?」と立ち止まる習慣を、少しずつ身につけていくものです。

「完璧にできること」より「続けること」より、「また戻ってくること」が大切です。
うまくできない日があっても、三日坊主になっても、構いません。
また気が向いたときに、このページを開いてください。ここで書かれていることを、思い出してください。

苦しみは、受け取り方の角度を少し変えるだけで、驚くほど軽くなることがあります。
それはあなたが感じていることを否定するのではなく、「同じ現実を、もう少し広い目で見る」ということです。


もし「もっと実践的に学びたい」「自分自身や周囲の人にも役立てたい」と感じた方は、認知行動療法を体系的に学ぶ方法を知ることも、一つの選択肢かもしれません。
一つひとつの知識が積み重なると、あなた自身の心の扱い方が変わっていきます。そしてその変化は、あなたの周りにいる大切な人へも、きっと伝わっていきます。


あなたの心が、少しでも軽くなりますように。

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学院長・石川千鶴が直接説明

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