思春期の虎の巻[第六回] 十四歳・四 「大人はわかってくれない」
2018.09.15
思春期の子供にとって、認識を変えるのは難しい事です。
やっと自意識が芽生えたばかりで、客観視はこれから学ぶのですから。
私は精神状態が不調になっても、まだ力に憧れていました。
何と馬鹿な事に、二月の時任先輩(仮)の卒業時に、胸のボタンを貰いに行ったのです。
なんとまあ。
呆れますね。
閑話休題。
時間は少し戻って、前回お約束した通り、私と漫画との関わりについてと、クラスでの私の様子をお話しします。
中学二年生の年末、演劇部の同級生、三木さん(仮)の発案で漫画の同人誌(コピー誌)を仲間で作ることになりました。
私は子供の頃からイラストが好きで、授業中こっそり描いたりしていました。
その頃はインターネットも普及してはいなく、子供たちは皆、漫画に夢中でした。
私もその頃はまだ、軽い鬱状態でしたので、新しい試みをやる気があったのです。
(…ストーリー漫画を連載しよう)
そう決めました。
漫画は現実逃避の有効な手段です。
生身の人間で作る映画と違い、美化した人物達を使い、言いたいことを言わせ、夢のような世界を描き出すのですから。
空想は現実逃避といわれます。
漫画はそれを自ら形に残せるのです。
脚本、出演、演出、総て思い通り。
人と交流の苦手な沢山の若い人が夢中になるのも頷ける事なのではないでしょうか?
少なくとも、当時の私には心に溜まったストレスの排出口として、うってつけでした。
私はSF作品を描き始めました。
夢中でした。大ぴらに授業中も描きました。
当時の公立中学は生徒の私語が物凄くて授業が成立しておらず、先生にも注意はされませんでした。
成績のいい子は、塾などで勉強していたのです。
当然ながら、私の成績は落ちて行きました。
それでも漫画は私にとって必要だったのです。
そんな私はクラスではどうだったでしょうか。
三学期の大掃除の時です。
私は掃除をサボり、仲のいいクラスメートの前でお道化ていました。
その頃はクラスの友達の前ではピエロを演じていました。
繋がる為に。十四年の人生を生きて来て誰にも相談というものをしたことがありませんでした。
「森、掃除をしなさい!」
担任の大木秀樹先生(仮)が怖い顔で言ってきました。
先生は、半数以上の生徒がサボっていたので本気でイライラしていたようなのですが、私は見抜けませんでした。
甘えでしかないのですが、その頃、両親や周りの大人に反発する……という手があったのだと気付き出した私は、何気なく
「やーだよ」と笑いながら答えました。
その途端、大木先生は私の胸倉を掴み、右手の拳を振り上げました。
その態勢のまま睨み合いは五秒ほど続きました。
私は怖かったです。
でも、顔は半笑いのままでした。実は固まっていたのです。
先生は私の表情を見てどう思ったのでしょうか。
殴っていたら問題になっていたと思います。間もなく、先生は掴んでいた左手を放しました。
そうして
「雑巾を洗って来なさい」
と言いました。
内心、蒼白の私はその言葉に従いました。
しかし、洗面所でこう呟きました。
「…女の子なのに…殴ろうとした」
私の頭の中の景色はただ白く濁っていました。
そしてこう思いました。
(他にも男子とか、勝手な事をしている子は沢山いるのに。私なら殴ってもいいと言うのかな?……大人って信用できない)
それから、全てが馬鹿馬鹿しく思えてきました。
私はその頃から人間不信になる事が高級なのだと信じ始めていました。
誰も分かってくれないだろうと、他人も自分も嘲笑いました。
家でも学校でもどうにもならない我がことの情けなさを、自嘲しました。
自嘲しているというポーズが救いだったのかもしれません。
本当に、扱いづらい子供だったと思います。
経験したから、認知行動療法を学んだから言います。
鬱になったらどなたか相談者を見つけてください。
ひとりで抱え込まないでください。
そして、一歩ずつ自己肯定できるよう、リラックスして向き合っていきましょう。
認知行動療法では『問題解決のコツ』も教えてくれます。
鬱になると「何で私だけ」という心理状態に陥りがちです。
でも、誰にでも問題は起きるのです。
そうして話してみて少し楽になったら、悩みのきっかけになった問題を解決していきましょう。
何が問題かをクライアントを一緒に明らかにしていき、適切な解決策を決め、無理のない方法で実行してみるのです。
そう、例えば「同級生とAについて話し合ってみよう」とかです。
一回で解決しなかったとしてもいいのです。そこから何か見えてくるかもしれません。
クライアント自身が、自分が中心になって取り組むことで、自信が持てるようになります。
ひとは生きながらにして生まれ変われるのです。
(森詩子)
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