納得のいかない理不尽に向き合う——「信念」を知的に貫くための心理学と認知行動療法
説明のない方針転換、約束が守られない連絡、記録に残らない口頭の指示。
日常の小さな理不尽は、静かに心をすり減らします。
「自分の信念は正しい」と感じていても、言い返せば角が立ち、黙れば飲み込まれたように思える——その板挟みがいちばんつらいところです。
本稿では、心理学と認知行動療法の考え方を、日々の実践に落とし込む形でご紹介いたします。
1 はじめの一呼吸——三つに分けて書き出す
感情が波立つと、言葉は荒れやすくなります。
まずは紙かメモに、次の三つだけを書き分けます。
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事実(見た・聞いた・残っていること):日付/資料名/発言の要旨
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決まりごと(社内規程・契約・手続き・合意事項など)
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お願い(次に何を、いつまでに、どの形式で)
 
例)
事実:4月12日の議事録に手続Aの記載がない。
決まりごと:規程CのD条では、手続AにBの記録が必要。
お願い:原本の提示と経緯のご説明を、4月19日までにお願いしたい。
気持ちを否定する必要はありません。
ただ、「事実→決まり→お願い」という順序を先に決めておくと、心は落ち着き、文章は自然に整います。
2 届く順序で伝える——事実→決まり→お願い
相手に届く文章は、順序が美しいものです。次の形を基本にしてみてください。
事実:〇月〇日の通知と議事録に、手続Aの記載に差がございました。
決まり:規程C・D条では、手続AにBの記録が求められております。
お願い:原本の提示と経緯のご説明を、〇日までに賜れますでしょうか。
同じ内容でも、感情や評価を先に置かないだけで、受け止められ方が変わります。
これは心理学でいう「受け手の負担を下げる並べ方」であり、メンタルの消耗を防ぐ最初の工夫です。
3 言い過ぎず、言い足りなくもない言い回し
角を立てずに要点を示すための表現集です。場面に応じて語尾を調整してください。
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「念のため確認させてください。」
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「私の理解に誤りがあればご教示ください。」
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「差分が生じている箇所を下にまとめました。」
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「手続の経緯が分かる資料がございましたら、写しをお願いできますでしょうか。」
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「期日につきましては、〇日を目安に設定いただけますと助かります。」
 
評価語(不当・不誠実 等)より、経過と手続を静かに指す言葉の方が、動きます。
4 出来事→受け止め→行動の流れで整える
認知行動療法では、出来事そのものよりも「受け止め方」が行動と感情に影響すると考えます。実務では次の簡素な手順に置き換えます。
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出来事:何が起きたかを短く書く(30字目安)。
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考え:最初に浮かんだ考えを書き、横に「別の見方」を一つ添える。
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例:最初の考え「わざと説明していないのでは」
別の見方「未読・周知漏れの可能性」 
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行動:三つに分けたメモ(事実・決まり・お願い)に沿って一通作る。
 
この「別の見方」を一つ挟むだけで、言葉の温度が下がり、読み手が内容に向き合いやすくなります。
5 そのまま使える短文テンプレート
(1)連絡の催促
先日のご連絡につき、私の確認が追いついていない可能性もございます。念のため、当該資料の所在と共有方法をご教示いただけますでしょうか。
(2)記録の提示依頼
〇月〇日の決定に関し、経緯が分かる記録(日時・参加者・要点)がございましたら、写しの共有をお願いできますでしょうか。
(3)言い落としの指摘
次の二点に記載の差が見受けられました。①通知(〇月〇日)/②議事録(〇月〇日)。相違の理由をご教示ください。
(4)期限のお願い
進行管理の都合上、〇日(〇曜)を目安に頂戴できると助かります。難しい場合は、差し支えない範囲で見込みをご教示ください。
6 相手の面目を保ちながら要点に戻す
日本の職場では、面目を保つ言い回しが話を前に進めます。次の置き換えが有効です。
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×「以前も同じことをお願いしました」
→ ○「前回お願いした内容と同一ですので、引用の形で下に再掲いたします」 - 
×「説明が不足しています」
→ ○「判断の手がかりが足りていないようです。次の二点を補っていただけますでしょうか」 - 
×「責任はどちらですか」
→ ○「所管の明確化のため、窓口と連絡方法をご指定ください」 
理不尽に対して感情で押し返すより、言葉で「道筋」を敷く方が強く、長持ちいたします。
7 一晩置くという作法——境界線を先に決める
夜間の文章は、翌朝の自分にとって過剰であることが少なくありません。次の境界線を最初に決めておきます。
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時間:返信は業務時間内。強い感情を伴う文は一晩置く。
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情報:開示する範囲を決める(私見・個人情報は必要最小限)。
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方法:電話/メール/文書の使い分けを事前に合意する。
 
境界線は我慢のためではなく、メンタルの体力を守る工夫です。
8 控えを一行で残す
主張が弱るのは、言葉の問題だけではなく、控えが散らばるからです。
次の四項目を一行で残すだけで十分です。
日付/やり取りの相手/要点30字/手元にあるもの(メール・議事録 等)
週に一度、抜けと重複を眺める時間を10分とれば、必要なときに落ち着いて差し出せます。
これは将来の自分を助ける、静かな備えです。
9 よくある三つの落とし穴と言い換え
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白黒で断じる
→ 「本件は次の二点に分けて整理いたします」と分割して扱う。 - 
自分を責め過ぎる
→ 「私の力不足かもしれない」より、「所管と手順を再確認する」に言い換える。 - 
相手の感情に巻き込まれる
→ 「今は温度が高いので、事実確認から始めます」と宣言して距離を取る。 
10 締めくくりの一文——静かな強さを言葉にする
最後の一文は、次のように簡潔で大丈夫です。
「事実と取り決めに沿って、必要な確認をお願い申し上げます。」
この一文は、攻撃でも服従でもありません。信念を静かに外へ出す、日本語の「間」を持った言い方です。
理不尽は消えませんが、向き合い方は変えられます。
心理学と認知行動療法の視点を、三つの書き分け(事実・決まり・お願い)、届く順序、短い言い回し、そして一晩置く作法へ。
今日の一往復から、どうぞお役立てください。
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