なぜ今、心理支援の現場で「認知行動療法」が重視されているのか ― 安心させる言葉から、支援を前に進める言葉へ ―

近年、心理支援の分野では、世界的にも日本においても、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)への注目が高まっています。

医療現場はもちろん、産業、教育、福祉など、さまざまな領域でCBTが採用されている背景には、共通した理由があります。

それは、

「話を聴くこと」だけでは、支援が前に進まないケースが少なくない

という臨床的な実感が、広く共有されてきたからです。

1.認知行動療法が大切にしている視点

CBTは、「感情を受け止めること」を軽視しているわけではありません。

むしろ、感情を非常に大切に扱います。

ただしCBTでは、感情を次のように捉えます。

  • 感情は大切な情報である

  • しかし、それだけでは全体像は見えない

  • 感情は、思考や行動、状況との関係の中で理解される

そのためCBTでは、面接の早い段階から、

  • どのような状況で

  • どのような考えが浮かび

  • どのような行動につながっているのか

を、少しずつ整理していく姿勢を大切にします。

2.CBTの視点から見る「安心させる言葉」の役割

心理支援の現場では、クライアントに安心してもらうために、

  • 丁寧な言葉づかい

  • 柔らかな声かけ

が用いられることがあります。

それ自体は、関係形成において重要な要素です。

一方で、CBTの視点では、安心させる言葉は「ゴール」ではなく、「スタート地点」と考えられます。

安心が得られたあとは、

  • 情報を整理する

  • 視点を広げる

  • 行動を検討する

というプロセスへ進んでいく必要があります。

3.守秘義務の伝え方と、CBTが重視する枠組み

こうした「安心させる言葉」の一つとして、心理支援の初期に、次のような説明がなされることがあります。

「ここで話したことはどこにも漏れません。

守秘義務をもって臨んでいますから、

関係していると思うことは安心してすべて打ち明けてください。」

この説明は、クライアントの不安を和らげる目的で用いられるものです。

守秘義務があることを明確に伝えること自体は、専門職として当然の姿勢でもあります。

一方で、認知行動療法の視点では、

「安心してすべてを打ち明けること」そのものが、面接の目的になるわけではありません。

CBTにおいて守秘義務は、

「何でも自由に話してよいこと」を保証するためというよりも、

情報を整理し、関連性を検討し、理解を深めるための安全な枠組みを確保するための前提条件として位置づけられています。

そのためCBTでは、

  • どの情報が、いま扱う課題に関係しているのか

  • どの部分を、どの順序で整理していくのか

を、心理職とクライアントが共同で選び取っていく姿勢が重視されます。

守秘が保証されているからこそ、

「すべてを話す」ことよりも、

「支援に必要な点を、整理しながら扱う」ことが可能になる

──それがCBTの基本的な考え方です。

4.「自由に話せる場」から「一緒に整理する場」へ

CBTでは、面接は次のように位置づけられます。

  • 何でも自由に話す場

    ではなく、

  • 一緒に状況を整理し、理解を深める場

この違いは、とても小さく見えて、実は大きな意味を持ちます。

「話せてすっきりする」ことは大切ですが、

それだけでは、

  • 同じ悩みを繰り返す

  • 問題の核心に近づけない

という状態に留まってしまうことがあります。

CBTが重視するのは、

「話した内容が、次の一歩につながっているかどうか」です。

5.心理職の言葉がつくる“枠組み”

心理職の言葉は、

単なるコミュニケーションではありません。

その言葉は、

  • この場は何をする場所なのか

  • 自分はどのように関わればよいのか

という枠組み(フレーム)を、無意識のうちにクライアントに伝えています。

CBTが広く支持されている理由の一つは、

この「枠組み」を明確にする点にあります。

  • ここはサービスを受ける場ではない

  • ここは一緒に考える場である

  • ここは変化のための作業の場である

その前提が共有されてこそ、支援は前に進みます。

6.傾聴から一歩先へ

傾聴は、心理支援の重要な土台です。

しかし現代の心理支援では、

  • 傾聴で止まらない

  • 安心で終わらせない

  • 「分かってもらえた」で完結しない

ことが求められています。

CBTが注目されているのは、

その「一歩先」を丁寧に示しているからだと言えるでしょう。

7.おわりに

心理支援の質は、

高度な技法よりも、最初にどのような枠組みを共有するかによって大きく左右されます。

どの言葉を選ぶか。

その言葉が、

  • 安心だけを生むのか

  • それとも、理解と変化につながるのか

認知行動療法が示しているのは、

「優しさを捨てること」ではありません。

優しさを、支援として機能させる方法です。

«

学院長・石川千鶴が直接説明

スクール説明会

  • 学び方、学びの活かし方、資格取得の方法など詳しく説明
  • レッスン・カウンセリングまで体験できる
ストレスの謎と解消法がわかる5つの特典付き

\きっと得する!/
無料スクール説明会はこちら

参加者の方は
5の特典付き