思い込みが真実を遠ざけるとき
― 認知バイアスが判断に与える影響と、私たちにできること ―
人は「自分の目で見ているものこそが真実だ」と考えがちです。
しかし心理学では、私たちが日々認識している世界は、実際には その人自身の解釈によって形作られている とされています。
過去には、長い年月を経てから解決に至った事件が複数存在します。
このようなケースは、思い込み(認知バイアス)が、真実を見えにくくしていることがあります 。
1. 思い込み(認知バイアス)とは何か
人は膨大な刺激すべてを精密に処理できません。
そのため脳は、経験・記憶・感情をもとに「近道」を使って結論を出します。
これが認知バイアスです。
近道は役に立ちますが、時に事実からのズレを生みます。
ズレは悪意からではなく、人間の情報処理の限界から自然に生じます。
代表的なバイアスを、責めずに“現象として”見てみます。
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確証バイアス: すでに持つ見解を支持する情報だけを集め、反証を軽視します。
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正常性バイアス: 異常事態でも「大丈夫だろう」と通常解釈に引き寄せます。
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親近性バイアス: 近しい相手ほど疑いにくく、評価が甘くなります。
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ステレオタイプ: 属性から行動を短絡的に推測します。
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後知恵バイアス: 結果を知った後に「予想できたはず」と判断を歪めます。
どれも「人なら誰でも持つ傾向」です。
特定の誰かの欠陥ではありません。
2. 思い込みの怖さは「気づきにくさ」にあります
思い込みが厄介なのは、自分の中では“事実”に見えることです。
主観の中で筋が通っているため、訂正が難しくなります。
結果として、以下が起こり得ます。
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選択肢の狭窄: 他の可能性を検討しなくなる
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誤情報の強化: たまたま合致した事例だけが積み上がる
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時間の遅延: 見直しが遅れ、対策の機会を失う
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関係の損耗: 「自分は正しい」の防衛が対話を硬直させる
ここでも重要なのは、悪意や人格の問題に短絡しないことです。
思い込みは「構造から生まれる現象」だからです。
3. なぜ思い込みは強化されるのか(心のメカニズム)
1.不安回避
不確実さは不安を呼びます。人は心の負担を減らすため、既存の理解に寄りかかります。
2.自己整合性
「自分は妥当な判断をしている」という感覚を守りたい心理が働きます(認知的不協和の低減)。
3.同調・権威の影響
集団の合意や権威の見解に安心感を覚え、検証が甘くなります。
4.情報の制約
時間・コスト・アクセスの制限が、近道(バイアス)使用を促します。
いずれも“人間らしさ”の一部です。
だからこそ、仕組みで補う発想が要となります。
4. 個人を責めないための原則
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原則A:人は誰でも思い込みに影響される
例外扱いをしません。 -
原則B:責任ではなくプロセスを見る
「誰が悪いか」ではなく「どう起きたか」に焦点を当てます。 -
原則C:検証可能性を高める仕組みを整える
二重確認、記録、第三者レビューなどの再現性を優先します。 -
原則D:学習と訂正を肯定する文化
修正は敗北ではなく、精度向上の証拠です。
5. 思い込みを和らげるためのCBT実践(個人編)
5-1. メタ認知チェック(1分ルール)
以下を声に出さず、心の中で問い直します。
・いまの判断は「事実」か「考え」か。
・反対の仮説を立てるとしたら何か。
・結論を保留したまま取れる次の一手は何か。
5-2. 思考記録(ミニ版)
| 状況 | 自動思考(瞬間の考え) | 感情 | 事実 | 代替思考 | 行動 |
|---|---|---|---|---|---|
| 例:連絡が遅い | 無視されている | 不安70 | 相手は多忙 | 可能性を確認しよう | 翌日午前に再送 |
ポイントは、“事実の列”を必ず作ることです。
5-3. 反証リスト
自分の結論と逆の証拠を、意識的に3点書き出します。確証バイアスの中和に有効です。
5-4. 時間差レビュー
感情が強い局面ほど、一晩置いて判断します。睡眠は評価の極端さをならします。
6. 思い込みを和らげるための仕組み(組織・場づくり編)
1.役割分離
仮説構築と検証担当を分け、相互に点検します。
2.レッドチーム方式
あえて反対仮説を推す小グループを設け、合意の死角を探します。
3.ブラインド化
属性・立場など結果に無関係な情報を一時的に伏せて評価します。
4.記録と言語化
推論過程を文章化し、後から検証できるようにします。
5.再評価のトリガー設計
新情報の到来、一定期間の経過などで自動的に見直し会議を設定します。
これらは人間の限界を前提にした“親切な設計”です。
個人の努力だけに頼らないことが、非難の連鎖を断ちます。
7. よくある“落とし穴”と回避の言い換え
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落とし穴:「これしかあり得ない」
言い換え:「今はこの仮説が最有力だが、他の可能性も保持する」 -
落とし穴:「結果論での断罪」
言い換え:「当時の情報制約の中での最善を検証する」 -
落とし穴:「個人の性格に帰属」
言い換え:「プロセスと環境要因を優先して点検する」
言い換えの習慣が、関係と判断の両方を守ります。
8. まとめ:非難ではなく、精度を上げる
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思い込みは人間の標準機能です。特定の個人の“悪”ではありません。
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怖さは“気づきにくさ”。だからこそ、仕組みで補正します。
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個人にはCBTの実践、組織には点検のデザインが有効です。
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訂正は責任逃れではなく、成熟のプロセスです。
私たちは、人の限界を責めるのではなく、よりよく考え直せる社会的な筋力を育てていきます。
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