「今年、まだ何もできていない」と感じるとき――自分を責めないための認知の整え方
12月に入り、街の空気が少しだけ慌ただしさを帯びる頃になると、ふと胸の奥に小さな不安が灯ることがあります。
「今年、何もできなかった気がする…」
「頑張ったはずなのに、成果が見えない」
「周りは前に進んでいるのに、自分だけ立ち止まっているようだ」
この“静かな自己否定”は、多くの方が12月に抱く共通の感覚です。
メンタルヘルスの観点からも、そして心理カウンセラーとして寄り添う視点からも、これは決して「あなたの努力不足」ではありません。
むしろ人が“12月という時期”に抱きやすい心の揺らぎであり、認知行動療法(CBT)でもしばしば扱われるテーマです。
本記事では、1年の終わりに起こりやすい心理変化を解きほぐしながら、“自分を責めずに年末を乗り切るための認知の整え方”を丁寧に解説いたします。
ハートフルライフカウンセラー学院が大切にしているのは、「心の仕組みを知り、自分の人生に優しくなること」。
ぜひ、静かな時間にゆっくり読み進めていただければ幸いです。
■ 1.なぜ12月は「自己評価」が揺らぎやすいのか
12月は、心理学的に“内省”が深まる時期と言われています。
気温の低下・日照時間の短縮・年末という節目が重なり、人は自然と「今年の自分」を振り返ろうとします。
● ① 人は「区切り」に弱い生き物
“年末”という言葉を聞くだけで、「今年の成果」「成長」「変化」を意識します。
これは脳の働きによる自然な現象で、決して精神的に弱いわけでも、自己肯定感が低いわけでもありません。
● ② SNS・比較文化が、静かな自己否定を呼び起こす
12月はSNSで“今年の振り返り投稿”が増加します。
「◯◯を達成しました」「転職しました」など、他者の成果が目に入りやすい季節です。
すると、人は自動的に比較を始めます。
他人の成功 ー 自分の現実 = 自己否定
認知行動療法では、この比較による落ち込みを“自動思考の歪み”として扱います。
● ③ 疲労が蓄積し、心が敏感になる
1年分の疲れは、12月にまとめて表面化しやすいものです。
疲れているときは、ネガティブな感情が増幅しやすくなります。
つまり、
「何もできなかった」ように感じるのは、事実ではなく“心の疲労”が判断に影響している。
これはメンタルヘルスの重要なポイントです。
■ 2.「何もできていない」と感じやすくなるのは、12月特有の“認知の偏り”
12月は、心理学的に「認知がネガティブに傾きやすい季節」です。
日照時間の減少、気温の低下、行事の多さ、そして“年末”という節目が重なり、人は無意識に自己評価を厳しくします。
認知行動療法では、この状態を “季節性の認知の偏り” と捉えます。
特に12月に強まりやすいのは、次の3つです。
● ① 全か無か思考(12月特有の「今年の総括」で生じやすい)
年末は、どうしても「今年はどうだったか?」という総括思考が働きます。
すると、部分的な達成は見落とされ、
「できた/できていない」の二分法で一年を評価しがちになります。
例)
・一つできなかったことがある →「今年はダメだった」
・完璧でない →「何もできていない」
12月は“区切り”が強調されるため、この偏りが特に強まります。
● ② 選択的注意(12月は「不足」に目が向きやすい)
12月になると、達成よりも“やり残し”が強く意識されます。
手帳やToDoを見返すことが増え、できていない予定・積み残した課題に視線が引き寄せられます。
例)
・10の成果より、2つの未達成を思い出す
・充実した日より、疲れた日ばかりが浮かぶ
これは12月の「振り返り文化」によって誘発される認知の働きです。
● ③ 過度の一般化(年末の“周囲との比較”が引き金)
12月はSNSや周囲から「今年の成果」が流れ込みます。
他人の成功の断片を見た瞬間、自分の1年を“たった一つの出来事”から一般化してしまいやすくなります。
例)
・「転職できなかった」→「私は成長していない」
・「資格を取れなかった」→「私の一年は無価値だ」
これは12月に特に増える“比較刺激”が原因です。
◎ まとめ
12月に「何もできていない」と感じるのは、あなたの努力不足ではなく、“季節性の認知バイアス”が強まるからです。
心理カウンセラーが年末に相談が増えるのも、この理由によります。
■ 3.12月の心を守るための「認知の整え方」
12月は、心が自動的に“総括モード”へ入るため、認知の整え方を少し変えるだけで、驚くほど心が軽くなります。
以下では、年末に最適化したCBTエクササイズをご紹介します。
◆ ① 【事実】と【考え】を分ける
――年末の「一斉振り返り」で混同しがちな2つ
12月は、反省と解釈が混ざりやすい時期です。
そこで、次のように書き分けてください。
例)
事実:資格試験は受けなかった
考え:だから今年は何もしていない
書き分けることで、“年末特有の過剰な解釈”を丁寧にほどくことができます。
◆ ② 「今年できたこと」を、時系列でなく“状態”で振り返る
――12月の振り返りは“量より質”
12月に「できていない」と感じる大きな理由は、時系列の振り返りが“やり残し探し”になってしまうためです。
そこで、以下の“状態ベース”の振り返りをおすすめします。
・続けられたこと
・踏ん張ったこと
・気持ちが戻ってきた瞬間
・自分を守るために休んだ日
・人を支えた場面
・壊れそうなときに続けた小さな努力
これらは、心理学では“回復の指標”と呼ばれ、むしろ最も価値の高い成果です。
◆ ③ 行動活性化:12月は「5分の行動」で十分
――疲労が蓄積する月は、負荷を極めて小さくする
12月の行動活性化のポイントは“負荷を最小化する”ことです。
・5分だけ掃除
・10分だけ散歩
・部屋の空気を入れ替える
・温かい飲み物を淹れる
・机の上を整える
これは年末の忙しさ・寒さ・疲労を前提にした“季節性CBT”です。
気分が落ちやすい冬でも続けられる、確かな方法です。
◆ ④ “今年の自分への優しい質問”をする
――12月は自己批判が最も強まる月
年末は、「もっとできたはずだ」という自責が最大化します。
そこで自分に問いかけてください。
「もし友人が同じことを言ったら、何と返すだろう?」
ほぼすべての方が、自分よりも友人に優しい言葉を返すはずです。
年末のセルフケアは、“友人への優しさを自分に向ける”ことから始まります。
■ 4.12月に強まる「3つの誤解」
――“何もできていない”は事実ではなく季節の錯覚
12月に自責が深まる背景には、年中特有の誤解があります。
● 誤解①: 成果は“目に見えるもの”だけ
――見えない努力が最も積み重なるのが12月
12月は外側の成果に目が向きやすい月ですが、心理学的に価値が高いのは“見えない成長”です。
・落ち込んでも立ち直った
・生活を守った
・しんどい時期を越えた
・心を保つ努力をした
・一年間休まず働き続けた
・嫌なことも誠実にこなした
これらは形式的な成果ではありませんが、“心の強靭さの土台”として非常に重要です。
● 誤解②: 他人の1年と比較してしまう
――12月は「成果の共有」が増える月
12月はSNS・職場・友人間で「今年のまとめ」「今年の成果」が急増します。
すると認知の焦点がズレます。
他人の成功(最も輝く部分)
ー
自分の一年(努力・葛藤を含む現実)
この比較が、自己肯定感を大きく下げます。
心理カウンセラーは12月に特にこの相談が増えるほどです。
● 誤解③: 完璧な1年でなければ失敗
――“年末”が作り出す幻の基準
12月になると、人は無意識に「完璧な一年像」をつくります。
しかし、人生は四季と同じように、動く時期と休む時期が自然に入れ替わります。
植物が冬に休んで春に花を咲かせるように、人にも「休息のフェーズ」があります。
停滞は失敗ではなく、次の成長の準備段階です。
■ 5.12月を“心に優しい月”に変えるために
ここからは、12月を健やかに過ごすためのメンタルヘルス習慣をご紹介します。
● ① 予定を“減らす勇気”を持つ
心が疲れているときは「減らす」が最優先です。
・誘いを断る
・無理な予定を入れない
・今年中に無理に解決しない
「今年中にやらなければ」という思い込みから、自分を解放してあげてください。
● ② 一日の終わりに「アンケート」を取る
自分にこう尋ねます。
「今日の自分を、10点中何点で評価する?」
5点でも、3点でも構いません。
“0点ではなかった”ことに意味があります。
これを続けると、
自己評価の安定につながります。
● ③ 心が沈んだ日は“気象”のように扱う
心理学では、感情は“空模様”にたとえられます。
雨は悪ではなく、ただの現象であるように、落ち込む日も、ただの現象です。
「今日は雨の日なんだな」そう思えるだけで、心の負荷は大きく下がります。
■ 6.「何もできていない」と思い込むほど、人は前に進んでいる
心理カウンセラーとして多くの方に向き合ってきた経験から申し上げますと、「何もできていない」と感じる方は、ほぼ例外なく“丁寧に生きている人”です。
・自分に正直
・向上心がある
・努力を振り返ろうとする
・自分の人生を大切にしたい
・周囲への責任感を忘れない
こうした方ほど、自分に厳しく、“努力している自分”を見落としがちです。
12月は、どうか自分を責めず、静かに労っていただきたいと思います。
■ 7.心が整うと、人生は静かに変わり始める
ハートフルライフカウンセラー学院では、認知行動療法を中心にした専門的なメンタルヘルス教育を提供しています。
・心の仕組みを知る
・認知の癖に気づく
・感情を整える技法を学ぶ
・生きやすさを高める
・他者の心も支える視点を持つ
これらは、誰にとっても“人生を変える大きな力”となります。
もし今、12月の始まりに心が少し揺れているなら、それは決して悪いサインではありません。
心が変わろうとしているとき、人は最も敏感になるものです。
あなたが歩んできた一年は、表面的な成果に関係なく、確かに価値がありました。
どうか、今日のあなたが、“今年の自分”にそっと優しくなれますように。
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