認知行動療法を自己理解に活かす|自己概念とスキーマから「自分」を深く知る

「自分のことは、自分が一番よくわかっている」
そう思っていても、
「なぜ私は、同じようなことで何度も悩むのだろう」
「なぜ、あの人の一言だけがこんなに気になるのだろう」
「頭では気にしなくていいとわかっているのに、なぜ気持ちがついてこないのだろう」
と、不思議に感じることがあります。

私たちは出来事をそのまま受け取っているわけではありません。
これまでの経験や、自分自身について抱いているイメージ、物事を見るときの考え方の枠組みを通して、出来事を受け止めています。

その仕組みを理解する手がかりになるのが、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)です。

認知行動療法では、出来事だけを見るのではなく、その出来事を自分が「どのように受け止めたのか」という認知に注目します。

そして、その認知を丁寧にたどっていくと、
「私は自分をどのような人間だと思っているのか」
という自己概念や、
「私は自分・他者・世界をどのように捉えているのか」
というスキーマが見えてくることがあります。

この記事では、「自己とは何か」「自己概念とは何か」「スキーマとは何か」を整理しながら、認知行動療法を自己理解にどのように活かせるのかを、具体的な例とともに解説します。

自己とは何か

心理学でいう自己(self)とは、単に身体として存在する「自分」を意味するだけではありません。

「私はどんな人間なのか」
「何が得意で、何が苦手なのか」
「何を大切にしているのか」
「人との関係の中で、自分をどのような存在だと思っているのか」
といった、自分自身についてのさまざまな認識が関係しています。

たとえば、
「私は責任感が強い」
「私は人前では緊張しやすい」
「私は人から頼られることが多い」
「私は失敗すると必要以上に落ち込む」
といった認識です。

私たちは日々の経験を通して、自分について多くの意味づけをしながら生きています。

そして、その「自分についてどのように認識しているか」を考えるうえで重要になるのが、自己概念です。

自己概念とは

自己概念とは、「自分はどのような人間なのか」という、自分自身についての認識やイメージのまとまりです。

性格だけではありません。
能力、価値観、役割、人間関係、仕事上の自分、家庭での自分など、さまざまな側面があります。

たとえば、
「私は真面目な人間だ」
「私は人とうまく付き合えない」
「私は努力する人間だ」
「私は人より劣っている」
「私は困っている人を放っておけない」
といったものも、自己概念の一部と考えることができます。

つまり、自己概念とは一言でいえば、自分が自分について持っている“自分像”です。

自己概念はどのように形成されるのか

自己概念は、生まれたときから完成しているものではありません。

家庭、学校、仕事、人間関係などで経験したことや、周囲から言われた言葉、成功や失敗の積み重ねなどを通して形成されていきます。

たとえば、幼い頃から、
「あなたはしっかりしているね」
と言われ続けた人がいたとします。

その人は、
「私はしっかりした人間だ」
という自己概念を持つようになるかもしれません。

それが責任感や行動力という強みにつながることもあります。

一方で、
「私はしっかりしていなければならない」
「人に頼るのはよくない」
と考えるようになれば、つらいときにも一人で抱え込みやすくなるかもしれません。

ここで大切なのは、
「私はこういう人間だ」と思っていることと、「私は本当にそういう人間なのか」は同じとは限らない
ということです。

自己概念は、これまでの経験を通して作られた「自分についての理解」だからです。

スキーマとは

自己理解をさらに深めるときに重要になるのが、スキーマ(schema)です。

スキーマとは、これまでの経験を通して形成される、自分・他者・世界を理解するときの基本的な捉え方の枠組みです。

いわば、物事を見るときに使っている「心のレンズ」のようなものです。

たとえば、
「失敗してはいけない」
「人から認められなければ価値がない」
「弱いところを見せてはいけない」
「人は信用できない」
「努力すれば道は開ける」
など、その人が物事を判断するときの土台になっている考え方があります。

スキーマは、いつもはっきり言葉として意識されているとは限りません。

本人にとってあまりにも当然の前提になっているため、
「私はそういう考え方を持っていたのか」
と、あとから気づくこともあります。

自己肯定

自己概念とスキーマの違い・関係

自己概念とスキーマは密接に関連していますが、同じ概念ではありません。

簡単に整理すると、
自己概念は「私はどのような人間か」という自分についての認識
スキーマは「自分・他者・世界をどのように捉えるか」という、より広い認知の枠組み
です。

たとえば、
「私は仕事のできない人間だ」
という自己概念を持っている人がいたとします。

その背景には、
「失敗する人間は評価されない」
「人より優れていなければ価値がない」
といったスキーマが関係しているかもしれません。

そして仕事でミスをすると、
「やっぱり私はダメだ」
という考えが浮かび、強い落ち込みにつながることがあります。

しかし、同じミスをした別の人は、
「誰にでもミスはある。次に防ぐ方法を考えよう」
と捉えるかもしれません。

出来事が同じでも感じ方や行動が違う。

その違いを生み出しているものの一つが、その人が持っている認知のパターンやスキーマなのです。

認知行動療法が自己理解に役立つ理由

では、自分の自己概念やスキーマを、どのようにして知るのでしょうか。

ここで認知行動療法の考え方が役立ちます。
認知行動療法では、出来事がそのまま感情を生み出すのではなく、その出来事をどう捉えたかという認知が、感情や行動に影響すると考えます。

たとえば職場で、上司から、
「この資料、もう一度確認してください」
と言われたとします。

Aさんは、
「どこか修正するところがあるんだな。確認しよう」
と考えました。

Bさんは、
「私は信用されていないんだ」
と考えました。

同じ言葉を聞いているのに、Aさんはそれほど気にならず、Bさんは強く落ち込むかもしれません。

では、なぜBさんには、
「私は信用されていない」
という考えが浮かんだのでしょうか。

この「なぜ」を丁寧に見ていくことが、自己理解の入口になります。

企業人

自動思考から、自分の認知のパターンを知る

認知行動療法では、ある出来事が起きたときに自然に頭に浮かんでくる考えを自動思考と呼びます。

先ほどの例でいえば、

上司から資料の確認を求められる

「私は信用されていない」と考える

不安になる

何度も資料を確認する

という流れです。

ここで大切なのは、
「なぜ私はこんな考え方をするのだろう」
と自分を責めることではありません。

まずは、
「私はこのような状況で、こういう考えが浮かびやすいのだ」
と気づくことです。

いくつかの出来事を振り返っていくと、
「失敗すると、自分の能力全体を否定しやすい」
「相手の反応が少し違うだけで、嫌われたと思いやすい」
など、自分なりのパターンが見えてくることがあります。

「なぜそう思うのか」をたどると、スキーマが見えてくる

さらに、
「それは自分にとって、どういう意味なのだろう」
と考えを深めていきます。

たとえば、
「私は信用されていない」

「仕事ができないと思われている」

「仕事ができなければ認めてもらえない」

「能力がなければ、自分には価値がない」
とたどっていったとします。

すると、
「能力がなければ、自分には価値がない」
という、より深い捉え方が見えてきます。

このように、自動思考を手がかりにして、その背景にある自己概念やスキーマを考えていくことで、
「なぜ私は、この場面になるといつもこんなに苦しくなるのだろう」
という疑問に、一つの答えが見つかることがあります。

スキーマは「悪いもの」ではない

ここで大切なことがあります。
スキーマは、見つけたら取り除かなければならない「悪い考え」ではありません。

たとえば、
「最後まで責任を持ってやり遂げたい」
という考えは、仕事をするうえで大きな強みになるでしょう。

しかしそれが、
「何があっても自分一人でやらなければならない」
となれば、苦しくなることがあります。

ある場面では自分を支えてきた考え方が、別の場面では自分を苦しめることもあります。

だからこそ重要なのは、
「この考え方は、今の私にどのように働いているのだろう」と見ることです。

認知行動療法は、ネガティブな考えを無理にポジティブな考えに変える方法ではありません。

事実を確認しながら、
「ほかの見方はないだろうか」
「もう少し現実に合った捉え方はないだろうか」
と検討し、考え方の柔軟性を広げていきます。

コミュニケーション

認知行動療法で自己理解を深める5つのステップ

日常の中でも、次のように振り返ることで、自分の認知のパターンを理解する手がかりを得ることができます。

ステップ1 感情が大きく動いた出来事を選ぶ

最近、強く落ち込んだ、不安になった、腹が立ったなど、気持ちが大きく動いた場面を思い出します。

ステップ2 そのときの感情を言葉にする

「不安」「悲しい」「怒り」「恥ずかしい」「悔しい」など、感じた感情を整理します。

ステップ3 その瞬間、何を考えたか確認する

「嫌われた」
「失敗したら終わりだ」
「私が我慢するしかない」
など、そのとき頭に浮かんだ考えを確認します。

ステップ4 似たパターンが繰り返されていないかを見る

ほかの出来事でも、
「失敗してはいけない」
「嫌われてはいけない」
「人に迷惑をかけてはいけない」
など、似た考えが繰り返されていないかを探します。

ステップ5 その背景にある自己概念やスキーマを考える

「私はどういう人間だと思っているのだろう」
「私は人をどう捉えているのだろう」
「私は、世の中はどういうものだと思っているのだろう」
と考えてみます。

こうして、
出来事 → 自動思考 → 感情・行動 → 認知のパターン → 自己概念・スキーマ
という流れを見ていくと、それまで漠然としていた「自分らしさ」や「悩みやすさ」の背景が少しずつ言葉になっていきます。

自己理解とは、「自分を決めつけること」ではない

自己理解というと、
「自分がどんな人間なのかをはっきりさせること」
だと思われることがあります。

しかし、認知行動療法の視点から考えると、それだけではありません。

むしろ、
「私はこういう場面では、このように考えやすい」
「この考え方には、こういう経験が関係しているかもしれない」
「いつも同じ反応をしなくても、別の選択肢もあるかもしれない」
と、自分を見る視点を増やしていくことです。

「私はこういう人だから仕方がない」
ではなく、

「私はこう考えやすい。でも、ほかの考え方も選べるかもしれない」
と思えるようになる。

そこに、自己理解を深める意味があります。

認知行動療法を学ぶことは、「自分を知ること」にもつながる

認知行動療法は、心理的な悩みを抱えた人への支援だけに使われるものではありません。
仕事、人間関係、ストレス、自己評価など、日常生活の中で自分自身を理解するためにも役立つ考え方です。

ハートフルライフカウンセラー学院では、認知行動療法について理論を学ぶだけではなく、認知の歪み、自動思考、スキーマの同定、ケースフォーミュレーション、認知再構成法などを、ワークや実践を通して学びます。

心理学やカウンセリングを学んでいると、
「人を理解するために勉強していたはずなのに、自分自身の考え方にも気づいた」
ということがあります。

他者を理解する学びと、自分を理解する学びは、実は深くつながっています。

自己・自己概念・スキーマに関するFAQ

Q.自己とは何ですか?

自己とは、自分自身についての認識や評価、自分と他者との関係の中での自分の捉え方などを含む心理学上の概念です。

Q.自己概念とは何ですか?

自己概念とは、「自分はどのような人間なのか」という、自分についての認識やイメージのまとまりです。性格、能力、価値観、役割などさまざまな側面があります。

Q.スキーマとは何ですか?

スキーマとは、これまでの経験を通して形成される、自分・他者・世界を理解するときの基本的な捉え方の枠組みです。日常の出来事をどのように解釈するかにも影響します。

Q.自己概念とスキーマはどう違いますか?

自己概念は主に「私はどのような人間なのか」という自己認識を指します。スキーマは、自分だけでなく他者や世界をどう捉えるかという、より広い認知の枠組みです。両者は互いに関連しながら、日々の認知や感情、行動に影響します。

Q.自動思考とスキーマはどう違いますか?

自動思考は、ある出来事が起こったときに、その場で自然に浮かんでくる考えです。スキーマは、そのような考え方の背景にある、より持続的な認知の枠組みです。

Q.「認知の歪み」とスキーマは同じですか?

同じではありません。認知の歪みは、出来事を偏って受け止める認知の傾向を表す概念です。一方、スキーマは、自分・他者・世界についての、より基本的な認知の枠組みを意味します。スキーマの影響を受けて、特定の認知の歪みや自動思考が現れやすくなることがあります。

Q.認知行動療法は自己理解にも使えますか?

はい。自分の自動思考や感情、行動のパターンを整理し、その背景にある自己概念やスキーマを考えることで、「自分がなぜそのように感じ、行動するのか」を理解する手がかりになります。

Q.自己理解のために認知行動療法を学ぶことはできますか?

はい。ハートフルライフカウンセラー学院の認知行動トレーナー養成講座では、認知行動療法の理論だけでなく、自動思考、認知の歪み、スキーマ、ケースフォーミュレーション、認知再構成法などを実践的に学ぶことができます。

まとめ|自分を知ると、「いつもの反応」以外を選べるようになる

自己理解とは、自分の性格に名前をつけたり、「私はこういう人間だ」と結論づけたりすることだけではありません。

「私はどのような場面で、何を考えやすいのか」
「その考えによって、どのような感情や行動が生まれているのか」
「その背景には、どのような自己概念やスキーマがあるのか」
と、自分の心の動きを丁寧に理解していくことです。

認知行動療法の視点で自分を振り返っていくと、
「自分は性格的にこうだから仕方がない」
と思っていたものが、
「私は、こういうときにこう捉えやすいのだ」
と理解できるようになることがあります。

この違いは、とても大きなものです。

なぜなら、「性格だから仕方がない」と考えれば選択肢はそこで止まりますが、
「私はこう捉えやすい」とわかれば、
「では、ほかの捉え方はできないだろうか」
と考えられるからです。

認知行動療法を自己理解に活かすことは、自分を否定することでも、自分を別の人間に変えることでもありません。

自分の心の動きを知り、必要なときには、これまでとは違う考え方や行動も選べるようになること。

それが、認知行動療法を自己理解に活かす大きな意味です。

➡認知行動療法についていろいろ知りたい方はこちらからご確認いただけます。

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