「なんか疲れた」が続く9月。季節の変わり目に心が不安定になる理由とセルフケア

学院長・石川千鶴

2026.09.04

9月に入ってから、特別なことは何もないのに
「なんとなく疲れが抜けない」
「理由もなくイライラする」
「涙もろくなった気がする」
——そんな感覚を覚えている方は少なくありません。
休みをしっかり取ったはずなのに疲れが残る、以前なら気にならなかった同僚の一言が妙に引っかかる、そんな小さな違和感が積み重なっている方もいらっしゃるかもしれません。
結論から言うと、これは気のせいでも、気持ちの弱さでもありません。
季節の変わり目には、自律神経・体内リズム・認知的な負荷という複数の要因が同時に重なりやすく、心身のコンディションが崩れやすい時期だということが、さまざまな研究や臨床の知見から指摘されています。
本記事では、その理由を心理学的な視点から整理したうえで、認知行動療法(CBT)の考え方に基づいた、今日から始められるセルフケアをご紹介します。

「なんか疲れた」は、気のせいではない

夏の疲れが抜けきらないまま朝晩の気温が下がり始める9月は、「秋バテ」や「寒暖差疲労」と呼ばれる心身の不調が起こりやすい時期として知られています。
倦怠感や集中力の低下といった身体症状に、気分の落ち込みやイライラ、不安感といった心理的な不調が伴うことも珍しくありません。
まずお伝えしたいのは、こうした変化は多くの人に共通して起こりうる自然な反応であり、「自分だけ弱っている」と自分を責める必要はないということです。

心が不安定になりやすい、3つの背景

① 自律神経が、変化への適応を続けている

自律神経は、暑さ・寒さに応じて体温や血流を調整する役割を担っています。
9月は日中と朝晚の気温差、あるいは冷房の効いた室内と屋外との寒暖差が大きくなりやすく、この調整の頻度と負荷が高まる時期です。
自律神経の負担が続くと、疲労感だけでなく、感情のコントロールにも影響が及びやすくなると考えられています。

② 日照時間の変化が、気分にかかわるリズムに影響する

9月から10月にかけては日照時間が徐々に短くなっていきます。
日光を浴びる量は、気分の安定にかかわる神経伝達物質セロトニンの合成や、体内時計(概日リズム)の調整に関与していることが知られており、日照時間の減少が気分の落ち込みやすさと関連する可能性は、季節性の情動変化に関する研究でも指摘されています。
もちろん、これだけで気分の不調のすべてが説明できるわけではありませんが、背景要因の一つとして知っておく価値があります。

③ 環境の変化に伴う、見えにくい認知的負荷

働く大人にとって9月は、下半期のスタートや人事異動、新しいプロジェクトの立ち上がり、学校行事の再開に伴う家庭内の予定変更など、生活のリズムが変わりやすい時期でもあります。
一つひとつは小さな変化であっても、「新しい担当業務を覚える」「新しいメンバーとの関係を築き直す」「変わったスケジュールに家庭の予定を合わせる」といった調整が積み重なると、気づかないうちに心のエネルギーを消耗させることがあります。
特にキャリアの転換期にある方や、責任ある立場で複数の変化に同時に対応している方は、こうした認知的な負荷を人一倍抱えやすい時期だといえるでしょう。

「疲れ」が「不安」や「落ち込み」に変わるのはなぜか

同じ疲労感であっても、それをどう受け止めるかによって、その後の気分は変わってきます。
心理学者ラザルスとフォルクマンが提唱したストレスの認知的評価モデルでは、私たちは出来事そのものよりも、
「この負担がどれくらい大きいか」「自分にはそれに対処できる資源があるか」
という二段階の評価(認知的評価)を通して、ストレス反応の強さを決めていると説明されます。
「疲れている」という事実そのものに、
「こんなに疲れているのはおかしい」「自分の頑張りが足りないからだ」
といった解釈が重なると、対処資源が足りないという評価につながりやすくなり、単なる身体的な疲労が、不安感や自己否定的な感情へと発展しやすくなります。
このメカニズムは疲労や不調のすべてを説明するものではありませんが、「疲れ」と「気分の落ち込み」の間には、こうした認知の働きが介在していることがある、という視点は、セルフケアを考えるうえで一つの手がかりになります。

認知行動療法(CBT)の視点から見る、今日からできるセルフケア

① 行動活性化:気力が戻るのを待つより、先に少しだけ動く

気分が落ちているとき、私たちは「気力が湧いてから動こう」と考えがちですが、CBTで用いられる行動活性化という考え方では、順序を逆にします。小さくてよいので、心地よさや達成感につながる行動を先にスケジュールに組み込み、実際に行動してみることで、気分がついてくることが期待できるとされています。
「5分だけ散歩する」「好きな音楽を1曲聴く」「湯船に浸かる」など、負担の小さい行動から始めてみてください。
ポイントは、気分が上向くのを待たずに、あらかじめ予定として決めておくことです。「気が向いたらやろう」では、疲れているときほど後回しになりやすいためです。

② 自動思考を点検する:「もうダメだ」に一呼吸置く

疲れているときほど、「もうダメだ」「私だけできていない」といった思考が自動的に浮かびやすくなります。
CBTでは、こうした瞬間的に浮かぶ考えを自動思考と呼び、それを事実そのものとして受け取るのではなく、一つの「考え方」として一歩引いて眺めることを大切にします。
「本当にそうだろうか」「その根拠は何だろうか」「他にどんな見方ができるだろうか」「もし友人が同じ状況にいたら、どんな言葉をかけるだろうか」——こうした問いを自分に投げかけるだけでも、思考と感情の間に少し距離が生まれ、感情に飲み込まれにくくなります。

③ セルフモニタリング:気分と行動を記録し、パターンを可視化する

一日の終わりに、気分の状態と、その日あった出来事や行動を簡単に書き留めてみましょう。
続けていくと、「気圧が下がる日は調子を崩しやすい」「予定が詰まった日の翌日に疲れが出やすい」など、自分なりのパターンが見えてくることがあります。
パターンが見えると、不調を「わけのわからないもの」から「ある程度予測できるもの」に変えることができ、それ自体が安心感につながります。

④ 生活リズムを整える:光・睡眠・食事という土台

朝に日光を浴びる、就寝と起床の時刻をできるだけ揃える、三食のリズムを保つといった基本的な生活習慣は、自律神経や体内リズムを整えるうえでの土台になります。
特に朝の光を浴びることは、体内時計を整えるだけでなく、気分の安定にかかわるセロトニンの合成にも関与すると考えられているため、カーテンを開けて朝日を浴びながら身支度をする、通勤の最初の数分だけ日の当たる道を選ぶ、といった小さな工夫から始めるのもよいでしょう。
特別なことをする必要はありません。今の生活に、無理のない範囲で一つだけ加えてみる、という意識で十分です。

セルフケアだけでは負担に感じるとき

ここでご紹介したセルフケアを試しても不調が2週間以上続く場合や、仕事や日常生活に支障が出ている場合は、一人で抱え込まず、心理の専門家に相談することをおすすめします。
誰かに話を聞いてもらい、自分の状態を客観的に整理するプロセスそのものが、回復への大きな一歩になることがあります。

当学院では、認知行動療法をベースとしたカウンセリングを行っているほか、心理学やカウンセリングの知識を体系的に学べる講座もご用意しています。
今回ご紹介したような「疲れが不安や落ち込みに変わっていく仕組み」や、それに対処するための考え方は、体系立てて学ぶことで、ご自身のセルフケアだけでなく、身近な方の心の状態を理解する助けにもなります。
「自分自身の心の仕組みをもっと理解したい」「学んだ知識を、いずれ人の役に立てたい」——そうした関心をお持ちになった方は、ぜひ講座の詳細もあわせてご覧ください。

コミュニケーション

よくある質問

Q. 「秋バテ」と「季節性のうつ」は同じものですか?
いいえ、同じものとは限りません。
秋バテや寒暖差疲労は、主に自律神経の負担による一時的な心身の不調を指す一般的な呼び方です。
一方、季節性の情動変化は、特定の季節に気分の落ち込みなどの症状が繰り返し現れるものを指し、程度や持続期間には個人差があります。
いずれも自己判断で決めつけず、不調が続く場合は専門家に相談することが大切です。

Q. セルフケアは、どのくらいの期間続ければよいですか?
効果の感じ方には個人差がありますが、行動活性化やセルフモニタリングは、1〜2週間ほど続けてみることで、自分なりのパターンや変化に気づきやすくなるといわれています。
すぐに効果が実感できなくても、まずは小さく試してみることをおすすめします。

Q. 専門家に相談する目安はありますか?
セルフケアを試みても不調が2週間以上続いている場合、あるいは仕事や家事、人間関係など日常生活に明らかな支障が出ている場合は、一人で抱え込まず、心理カウンセラーや医療機関など専門家に相談することをおすすめします。

認知行動療法心理士

まとめ

9月に感じる「なんか疲れた」という感覚には、自律神経の負担、日照時間の変化、環境変化に伴う認知的負荷など、複数の要因が重なっている可能性があります。
そこに「疲れているのはおかしい」という自己否定的な解釈が加わると、不調はより深まりやすくなります。
行動活性化や思考の点検、セルフモニタリングといったCBTの考え方を取り入れながら、まずは小さな一歩から、心と体をいたわってみてください。

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