季節の変わり目、感情の波を”自分で”整える技術 ── 心理学に基づくセルフ・カウンセリングの実践

ブログ 学院長・石川千鶴

2026.09.10

夏の疲れが抜けきらないうちに、朝晩の空気だけが先に秋めいてくる。
そんな時期に、理由もなく気分が沈んだり、些細なことでイライラしたり、感情が波のように上下するのを感じたことはないでしょうか。

季節の変わり目に心が揺れやすくなる背景には、自律神経が寒暖差に適応しようとする負荷や、日照時間の変化が体内リズムに影響することなど、身体的な要因が関わっていると考えられています。
加えて、身体が疲れている時期は、物事を受け止めるための心の余力も小さくなりがちです。普段なら聞き流せる一言に強く反応してしまったり、いつもより先のことを悲観的に考えてしまったりするのは、そのためです。

こうした揺れは、意志の力で無理やり抑え込もうとするほど、かえって長引いてしまうこともあります。
ここで大切なのは、感情の揺れそのものを止めようとすることではなく、揺れを感じたときに自分で整える「技術」を持っておくことです。
心理学、とりわけ認知行動療法(CBT)の領域では、感情は偶然に湧き上がるものではなく、いくつかのプロセスを経て強まったり和らいだりすることが研究されてきました。
専門的なカウンセリングを受ける前の段階として、日常の中で自分自身に対して行える「セルフ・カウンセリング」の技術を、3つご紹介します。

技術1:感情に「名前」をつける ── アフェクト・ラベリング

漠然とした胸のざわつきを、「イライラ」「不安」「寂しさ」など、具体的な言葉に置き換えてみる。
これだけのことですが、心理学ではこの行為を「アフェクト・ラベリング(affect labeling)」と呼び、一定の効果が確認されています。

UCLAのリーバーマンらが2007年に発表した研究(Lieberman et al., 2007, Psychological Science)では、不快な表情の写真を見た際に、その感情に言葉でラベルをつける条件において、扁桃体(情動反応に関わる脳部位)の活動が抑えられる傾向が確認されました。
感情を無視したり抑え込んだりするのではなく、「言葉にする」という行為そのものが、感情の強さを和らげる方向に働くことがあるのです。

たとえば、会議中に上司の一言でカッとなったとします。
そのまま反応する前に、心の中で「今、私は苛立ちを感じている」と一度言葉にしてみてください。正確な言葉である必要はありません。
「なんとなく嫌な感じ」でも構いません。休日に理由もなく気分が晴れないときも同様に、「今の自分は少し寂しさを感じているのかもしれない」と、その場で言葉にしてみるだけで構いません。
感情に輪郭を与えること自体に意味があります。
慣れてきたら、一日の終わりにその日感じた感情を三つほど書き出す習慣にすると、自分の感情の波のパターンが見えてきます。

技術2:「出来事」と「解釈」を切り分ける ── ABC理論

同じ出来事に対して、ある日は気にならないのに、別の日には強く落ち込んでしまう。
そんな経験はないでしょうか。これは、心理学者アルバート・エリスが提唱したABC理論で説明されることがあります。

ABC理論では、出来事(Activating event)そのものが直接、結果としての感情や行動(Consequence)を生むのではなく、その出来事をどう受け止めるかという信念・解釈(Belief)が間に挟まっていると考えます。
つまり、感情の波を作っているのは出来事そのものというより、その日の心身のコンディションによって変化しやすい「解釈」の部分だということです。

感情が大きく揺れたときは、紙やスマホのメモに次の三つを分けて書き出してみてください。
①何が起きたか(A)、②自分がそれをどう意味づけたか(B)、③どんな感情や行動が起きたか(C)。この三つを分けて書くだけで、多くの場合、Bの部分に「絶対に」「いつも」「もう終わりだ」といった極端な言葉が入り込んでいることに気づきます。
出来事そのものと、自分の解釈とを切り分けて眺めることが、感情に振り回されている状態から一歩距離を取る助けになります。

技術3:意味づけをつくり直す ── 認知的再評価

スタンフォード大学のジェームズ・グロスらが提唱する感情調整の過程モデルでは、感情への対処法として「抑制(表情や反応を我慢する)」と「再評価(出来事の意味づけを変える)」が比較されてきました。
研究の蓄積からは、感情を抑え込む「抑制」よりも、状況の捉え方そのものを見直す「再評価」の方が、主観的なつらさの軽減や周囲との関係の維持において有利な傾向があることが示されています。

感情をその場でこらえる「抑制」は、一時的にはその場をやり過ごせても、内側のつらさそのものはあまり軽くならず、むしろ人との間に距離を感じさせてしまうことがあると指摘されています。
一方の「再評価」は、出来事の意味づけそのものに手を加えるため、感情の発生そのものを和らげやすいとされます。再評価は、無理にポジティブに考えることとは異なります。
たとえば「季節の変わり目で仕事が立て込んで余裕がない」と感じたとき、「この忙しさは、自分の仕事が信頼されている証でもある」というように、同じ事実に対して別の角度からの意味づけを、一つ追加してみる作業です。
あるいは「今日は不調でうまく話せなかった」という出来事に対して、「調子の波は誰にでもあるもので、今日がすべてを決めるわけではない」と付け加えてみる。
答えを一つに決めつけず、「他にどんな見方ができるだろうか」と自分に問いかけること自体が、再評価の技術の核心です。

対面学習

実践のコツ:いつ、どのくらい行うか

三つの技術は、いずれも特別な道具や長い時間を必要としません。感情が動いたその場でラベリングを行い、一日の終わりに数分だけABC理論で振り返り、余裕があるときに再評価で意味づけの選択肢を広げる。
この順番で、通勤電車の中や、仕事の合間の数分でも実践できます。最初から完璧にこなそうとせず、まずは一つだけ、今日の自分の感情に名前をつけることから始めてみてください。

季節の変わり目の心の揺れは、性格の弱さや甘えではなく、身体的な負荷と認知的なプロセスが重なって起きる、説明可能な現象です。
だからこそ、対処の仕方もまた、技術として身につけることができます。

この技術は、他者を支える力にもつながる

ここまでご紹介した技術は、自分自身の感情を整えるためのものですが、応用の範囲はそれだけにとどまりません。
職場で動揺している同僚や部下に対して、頭ごなに「気にしすぎだ」と片づけるのではなく、感情に言葉を与える手伝いをしたり、出来事とその人なりの解釈とを一緒に切り分けて整理したりする関わり方は、対人支援の基本的な姿勢そのものでもあります。

自分の感情の扱い方を知っている人は、他者の心の揺れにも気づきやすくなります。
セルフ・カウンセリングの技術を身につけることは、自分自身を整えるだけでなく、家族や同僚など身近な人を支える力を育てることにも、少しずつつながっていきます。

コミュニケーション

よくある質問

Q. これらの技術は、誰でもすぐに効果を感じられますか。
感じ方には個人差があります。一度で効果を保証するものではありませんが、繰り返し実践することで、感情の波に気づき、距離を取る力が少しずつ育っていくと考えられています。

Q. 感情の波が強すぎて、自分では整えられないと感じるときはどうすればよいですか。
セルフケアの技術だけでは対応が難しいと感じるときは、専門家によるカウンセリングを利用することも一つの選択肢です。
第三者の視点が入ることで、自分では気づきにくい解釈のクセが見えてくることもあります。

Q. 三つの技術は、同時にすべて行う必要がありますか。
要はありません。どれか一つだけでも、続けることで感情との付き合い方は変わっていきます。
まずは自分に合いそうなものを一つ選んで試し、慣れてきたら他の技術も組み合わせてみるとよいでしょう。

Q. これらは認知行動療法(CBT)とどう関係していますか。
アフェクト・ラベリング、ABC理論、認知的再評価はいずれも、感情を「出来事そのもの」ではなく「出来事の受け止め方」との関係で捉える点で、CBTの基本的な考え方と重なっています。
CBTでは、こうした技術をより体系的に、対人関係や行動面の工夫と組み合わせて扱います。

おわりに

感情の波は、無理に消そうとするものではなく、扱い方を知っておくものです。
今回ご紹介した3つの技術は、どれも特別な訓練を必要とせず、今日から試すことができます。

ハートフルライフカウンセラー学院では、認知行動療法を中心に、こうした心の仕組みを体系的に学べる講座をご用意しています。
自分自身の感情との付き合い方をもっと深く学んでみたい方、心理学やカウンセリングの視点を仕事や日々の生活に生かしたい方、あるいは今回のような技術を使って人を支える側になってみたいと感じた方は、ぜひ一度、無料説明会にお越しください。

公式サイト:https://www.heartfullife.jp/

学院長・石川千鶴が直接説明

スクール説明会

  • 学び方、学びの活かし方、資格取得の方法など詳しく説明
  • レッスン・カウンセリングまで体験できる
ストレスの謎と解消法がわかる5つの特典付き

\きっと得する!/
無料スクール説明会はこちら

参加者の方は
5の特典付き